グレーを受け止める力が、部下を自立へ導く

「じゃあ、どっちにする?」
職場で部下と話すとき、つい「決める」「はっきりさせる」「明確化」「白黒つける」という方向に進みがちではないでしょうか。もちろん、仕事には結論や判断が必要です。しかし、そのスピードを重視しすぎると、部下の考えの芽を摘んでしまうことがあるかもしれません。実は、結論を急がずに「グレーな状態」を許容する時間こそ、部下の成長を促す場になるのではないでしょうか。
曖昧さ耐性とは・・・
「曖昧さ耐性」とは、不確実な状況や未完成の情報を抱えたまま、慌てず急がず、まずは受け止める力のことです。
職場では「効率」や「即決」が称賛されがちですが、そればかりを求めると、この耐性は低くなります。曖昧さを許容できると、部下は安心して本音や未整理の思考を表に出せます。そこには、すぐに答えに結びつかないけれど、将来の成長に必要なヒントが隠れているのではないでしょうか。
グレーを許すことで起きる変化
「今は決めなくてもいい」と自分や相手に許可を出せると、不安が軽くなります。その不安は“行動を止めるブレーキ”ではなく、“慎重に進むアクセル”に変わり、「まずはやってみよう!」という一歩が踏み出しやすくなるのではないでしょうか。例えば、
部下:「まだ案がまとまらなくて…」
上司:「いいよ、今は白黒つけなくて。まずは出てきたアイデアを全部見せてくれる?」
部下:「やったことない仕事なので、失敗しそうで…」
上司:「じゃあ、小さくてもいいから、何ができそう?やりながら決めていけばいい」
こうしてグレーを保つことで、不安 → 停滞ではなく、不安 → 小さな行動につなげられるかもしれません。
プロセスを聴くことが成長につながる
仕事においても、プロセスは非常に重要です。決める、選択するのはその先でよく、まずは「なぜその企画にしたのか?」「どうしたいのか?」という背景や意図を聴くことが大切です。この問いを重ねることで、部下は自分の思考を言語化できるようになり、そのプロセスは、1つの仕事で終わるものではなく、次の仕事にも応用できます。つまり、”結果 → プロセス → 再現性 → 自立”という流れが生まれるのではないでしょうか。
たとえば企画の場面で、「いい企画だね」と結果だけを褒めるのではなく、「どういう経緯でこの案に行き着いたの?」と尋ねてみると、本人の判断基準や迷ったポイント、工夫した点が明確になり、次回以降もその経験を活かせるようになります。そんな対話の積み重ねが部下の成長に繋がり、上司の望む「自立や主体性をもって取り組む」という部下の姿にも繋がっているのではないでしょうか。
ジェラットの「積極的不確実性」に学ぶ
キャリア理論家ジェラットは、「積極的不確実性(Positive Uncertainty)」という考え方を提唱しました。これは、「不確実な状況は避けるべきものではなく、成長や発見の源になる」というものです。そのポイントは4つ。
- ①未来は予測できないと認める・・・完璧な情報は得られないことを前提に行動する
- ②柔軟に考える・・・選択肢や視点を固定せず、複数の可能性を持ち続ける
- ③行動しながら学ぶ・・・決定してからではなく、試しながら修正していく
- ④変化を味方にする・・・計画変更や予期せぬ出来事もチャンスと捉える
これは、曖昧さを受け止める上司の関わり方と重なります。「今は決めなくてもいい」「やりながら考えよう」という言葉は、まさに積極的不確実性の実践です。変化の多い時代において、この柔軟さこそが部下の自立を促し、組織の可能性を広げる力になります。
曖昧さを受け入れることは、結論を先延ばしにするためではありません。それは、部下の思考力や判断力を育て、再現性のある行動を取れるようにするための“投資”かもしれません。
「白黒を急ぐ」から「グレーを活かす」へ・・・
この視点の切り替えが、部下の自立を促し、組織全体の柔軟性と創造性を高めるのです。そして、グレーを受け止める力を持つ上司こそ、変化の多い時代に強いチームをつくる存在となるのではないでしょうか。
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