見えている言葉の奥にあるものを聴く

「なにか・・・気になるな~」
日常の会話や職場のやりとりで、「なんとなく気になる言葉」や「引っかかる言い回し」に出会うことはありませんか?
私たちが普段接している言葉や態度は、あくまで“氷山の一角”であるといわれています。その奥にある思いや価値観に気づけるかどうかで、関係性の質や深さは大きく変わってくるかもしれません。
そんなことを改めて感じた、ある方との会話がありました。その方は定年を迎えたばかりで、色々お話しいただく中でこう語られました。
「もう仕事はやり切ったから、これからはのんびりしたいと思っていたんです」
この「思っていた」という言葉が、どこか気になりました。話を続ける中で、その方の表情や語り口から、単なる“引退の安心感”だけではない感情があるように感じたのです。
そして、会話を深めていくと、こんな言葉が返ってきました。
「でもね・・・のんびりはできるんだけど、どこか物足りなくて。やっぱり仕事って、社会と繋がっていた時間だったんだなって・・・・」
その瞬間、氷山の“水面下”にある部分が少し見えた気がしました。
「仕事をやり切った」ことには確かに達成感があり、解放感もある一方、それと同時に、「社会との繋がり」「人の役に立っていたという実感」「誰かに必要とされていた感覚」そうしたものが失われつつある今、次にどこで“存在意義”を見出すかを模索している姿が浮かび上がってきたのです。
その時、もし、表面的な言葉だけを受け取って「じゃあ、のんびりできて良かったですね!」で終わっていたら、その方が抱えている内面の思いやこれからの課題には気づけなかったと思います。”見えない情報”、”見えていない情報”を共に探求することが対話であり、その一つひとつの関りが信頼関係構築に繋がるのではないでしょうか。
また、こうした体験を通じて改めて感じたのは、「全体像で捉える視点」の大切さです。人の言動や表現は氷山の“上に出ている部分”にすぎません。その水面下には、
・感情(不安、迷い、期待、葛藤)
・思考(信念、価値観、人生観)
・経験(過去の出来事や背景)
といった、さまざまな“見えない層”が広がっています。この見えない部分に目を向けようとする姿勢こそが、相手を理解する第一歩なのではないでしょうか。
そしてもう一つ忘れてはならないのが、「自分と相手は違う存在である」という立ち位置に立つことです。この点は、繰り返し、私自身にいい聞かせている部分ではあります。
自分ならこう考える、自分ならこうする。その「自分基準」で相手を判断や評価してしまうと、無意識に「わかっているつもり」になり、すれ違いが生まれます。
相手の言葉に違和感を覚えたときは、むしろチャンス。その言葉の裏にある背景を聴く姿勢を持つことで、コミュニケーションは格段に深まるのです。お互いの違いを知ることも、対話の醍醐味ではないでしょうか。
特に40~50代の方は、部下や同僚、上司との関係に加えて、家族や地域など多様な人間関係の中にいるかもしれません。それだけに、「見えないものに気づく力」「違いを前提とした対話力」が求められる世代でもあります。
人と深く関わるためには、見えている言葉だけで判断せず、氷山全体をイメージして向き合うこと。そこに立つことで、本当に必要とされる信頼関係が育っていくのではないでしょうか。
<職場でのお困りごとやご相談など、お問い合わせはこちらまで・・・>