自律の前にある、迷っても大丈夫な関係
「間違えないように慎重ですね・・・・」
「指示を待っていることが多くて・・・・」
新入社員を迎える春になると、現場ではこんな声を耳にすることがあります。
最近の若い世代には、「失敗したくない」「正解を選びたい」という傾向がある、と言われることもあります。ですがそれは、主体性の弱さというより、新しい環境の中で“どう振る舞えばよいのかを探している姿”と見ることもできるのではないでしょうか。
分からないことが分からない。
それを聞いていいのかどうかも判断がつかない。
社会人としてのスタート時期には、こうした“揺らぎ”があって自然なのかもしれません。
だからこそ、この時期を「早く正しくできるようになるための訓練期間」とだけ捉えるのではなく、働くための“土壌”をつくる時間として見てみると、少し景色が変わってきます。
植物が芽を伸ばす前に、まず根を張るように、人もまた周囲と関わりながら、自分の立ち位置を確かめていきます。この“土壌”は、特別な制度や面談だけで整うものではなく、日々の小さな関わりの中で少しずつ形づくられていくのではないでしょうか。
例えば、出社時に名前を呼んで挨拶をすること。
ちょっとした雑談の中で仕事のコツを伝えること。
いただき物のお菓子を「よかったらどうぞ」と分け合うこと。
用件がなくても「慣れてきましたか」と声をかけてみること。
どれも指導という程のものではありませんが、こうした接点の積み重ねが、「ここでは人に関わってもいいらしい」という感覚を育てていくのかもしれません。
そして、『他者との接触が多い人ほど、新しい環境への適応が進みやすい』という話を聞くことがあります。それは能力の差というより、未知のことに出会ったときに「誰かに聞いてみよう」と思える選択肢を持てているかどうかの違いなのかもしれません。色々な人との関わりが増えることで、世界の見え方が少しずつ広がっていきます。
「あのことはAさんに聞けば分かるかもしれない」
そんな小さな見通しが、不安を和らげていくのです。
新しい場所に来たばかりのとき、人はまず周囲を確かめながら、その場の空気や関係性を感じ取ろうとします。「ここはどんな場所なのだろう???」と探索している段階とも言えそうです。
だからこそ、この時期に大切なのは、すぐに答えを出させることよりも、安心して行き来できる関係をつくることなのではないでしょうか。
すぐに結論を教える代わりに、「どう考えたの?」と尋ねてみる。
評価を急ぐ前に、「そう思った理由」を一緒に言葉にしてみる。
迷っている様子があれば、「少し悩みますよね」と受け止めてみる。
そうした関わりの中で、人は少しずつ、自分で考えてみようとするようになるのです。
自律とは、最初から迷わず行動できることではなく、迷いながらも選び取ろうとする力が育っていく過程の中に表れてくるものなのかもしれません。
春という時間は、目に見える成長を急ぐ季節というより、見えにくい根を育てる季節です。
日常の何気ない声かけや関わりが、その“土壌”をやわらかく耕していきます。そう考えると、私たちの関わり方にも、少し違った意味が見えてくるのではないでしょうか。
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